マンガアシの教科書

22歳でアシスタントとして漫画業界入りし、プロ漫画家になったはいいけどヒット作無しで30年経過した男の告白ブログ/Amazonアソシエイト・プログラムの参加者です

アナログアシ時代の思い出 その10「緊張した話」

臨時アシスタントで緊張した時のはなし。

 

臨時で入って、最初に任される背景は緊張します。

速くやらなきゃ。

どのくらいのスピードでやらなきゃいけないんだろ。

どのくらいって!
最速でやるに決まっている!

とか、いろいろ考えを巡らて焦る。

アシスタントにとって、作画スピードは重要だ。

「お、早いねー」

とか言われるとほっとするし、

 

「そんなに丁寧にやらなくていいよー」

 

とか軽く言われたりすると

全身の汗腺から汗がブワッと出る。

「そんなに丁寧にやらなくていいよー」は、

暗に、

「時間かかりすぎ」
って言われてるのと同じだからだ。

 

だから、一番最初にまかされる仕事は、

緊張集中が高まるなかで取りかかる事になります。

 

でもね

そいいう時に限って時間かかったりするんです。

力が入りすぎているからか、

コマ枠の外に青鉛筆で書いてある重要な支持を見落としていたり。

 

20分くらい下描きした後で、

その指示メモに気づいて

ひ~~~~ッ!!ってなって

よけいに汗だくになって、あせってあせって…。


「ほんとはもっと早いんですよ~!
いつもは、こんなじゃないんです~!」

なんて内心で言い訳しながら汗まみれで仕事したり…。


アナログアシは、在宅デジタルとは比べものにならないくらい

嫌な、変な緊張感があるんですよね。

常に先生のご機嫌をうかがってるような。

そうしていなければいけないような雰囲気に呑まれたりして…。

新入社員で、いきなり社長秘書に抜擢された感じ?


そんで、先生が指示を伝えるのがあまり上手くない場合は大変。

声が小さくて聴き取れないとか、

OKなのかどうかがハッキリわからない言い方をする、とか。

 

下描き見せても、

これでペン入れまでやっていいかどうかわからんとか。

「ん!」

とだけ言って原稿を渡される、とか。

 

まあ、その都度、質問して確認するんですけど、

そういう先生にかぎって

すご~く質問しづらい雰囲気を持っていたりするんですよね~。


まあ僕も、人様のことは言えませんけどね。

僕が漫画家になってアシさん雇った時とか、

まさにそういう漫画家だったんじゃないかなと思います。

いま考えると、反省点ばかりです。

 つづく…

 

 アナログアシ時代の思い出 その10 おわり


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アナログアシ時代の思い出 その9「もれそうになった話」

ロイホ先生(仮名)が骨折している間、

先生の担当編集者さんに紹介してもらったのが、

以前、同じ雑誌に短期集中連載で漫画を描いたことのある

シティ先生(仮名)だった。

 

その日は、シティ先生の初日。

まだ先生にもお会いしたことはなかった。

シティ先生の仕事場のある最寄り駅に到着した僕は、

ひどい下痢に苦しんでいた。

 

僕は、予備校のころから、

アルバイトも含めて、新しい職場に移ると、

決まって高熱を出したり、お腹を下したりする癖があるのだ。

その日も、

「ああ、いつものヤツだ…」

とか思いながら、

「もうヤバイ…、シティ先生の仕事場に到着したら、
失礼ではあるが、速攻でトイレに行かせてもらおう」

と考えていた。


電話では、最寄駅まで、

チーフアシスタントの人が迎えにきてくれるという事だった。

迎えにきてくれたその人は、年齢は僕と同じくらいで、

僕より小柄、猫背で黒ぶちのメガネをかけた関西なまりの強い人だった。

ここでは、マネジさん(仮名)と呼ばせてもらう。

 

挨拶もそこそこに、僕はマネジさんに連れられて仕事場へ向かった。

頭の中は、「ウンコもれそう!」が渦巻いている。

 

早く!早く!

 

僕は、仕事場についてシティ先生に軽くご挨拶してから、

「すみません、トイレに行かせてもらってもいいですか?」
とお願いするつもりで、黙々とマネジさんの後をついていった。

 

ところが、いつまでたってもたどり着かない。

車も通れないような小道を通ったり、

児童公園を突っ切ったり、かなり複雑な道順で、

駅まで帰るときに、

迷わないだろうかと心配になるほどであった。


そんなことよりもウンコである。

もうそろそろ限界が近づいてきた。

いまスナイパーに脳天を撃ち抜かれたら

倒れる前にウンコが肛門から噴出するという状態であった。


突然、いままで無口だったマネジさんが口を開いた。

 

「いや~、ホントは駅のすぐ近くだったんですけどねぇ、

すぐ案内したんでは面白みがないので、

わざといろんなところをぐるぐる遠回りしてみましたぐふふ…」


「コ、コイツ…!!」(-""-;) 

 

僕は、軽い殺意をおぼえたが、

感情を殺しながら

「すいません…さっきから、お腹が痛くて…。
ちょっと早くトイレに行きたいんですが…」

と告げた。

 

さすがにマネジさんは顔色を変えて、

「えっ、あ…すいません。そしたら急ぎましょうね!」

と早足で歩き始めました。

 

それから、

何とかギリギリでシティ先生の仕事場に到着し、

事なきを得たというお話でした。


まあ、何とかなるもんですよね!

なんて…何とか締め切りに間に合った漫画家みたいなセリフですが。

 

つづく…


アナログアシ時代の思い出 その9 おわり

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アナログアシ時代の思い出 その8「臨時ヘルプに行く話」

レギュラーで入ってる仕事以外に

ほかの仕事場へお手伝いに行くこともありました。

 

臨時アシスタントとかヘルプのアシスントとか呼ばれてました。


臨時のお手伝いに行くと、

まず仕事部屋に通されて、

「この机を使ってください」

とか言われて、さっそくお仕事を開始します。


漫画業界って、不思議な業界で、

仕事内容とかお給料とかの話し合いとか、

事前にされることはあまりありませんでした。

昔の話ですけどね。

 

僕がアシスタントを始めた22歳のころ(平成元年)は

そうでした。

最近は、結構きっちりするようになりましたね。

〇〇時~〇〇時まで、休憩〇回、お給料は〇〇円

とか事前にちゃんと決めてくれる先生が多くなりました。

 

昔は、いきなり何も言われないまま12時間くらい仕事して、

終わったら、

「今日はありがとう。助かったよ」

ってお給料をもらうんです。

 

ただ、その瞬間までいくらもらえるか全然わからないんです。

帰りの電車の中で時給計算したら時給440円だったってこともありました。

でも、だいたい一日10,000円~15,000円 と相場は決まっていました。


僕がいただいた最高額は、一日20,000円 でした。

20,000円の先生は、さすがにその人一人だけでしたけどね。


この金額はリーマンショック以前の金額です。

リーマンショックで、漫画業界も少なからず打撃を受けました。

漫画家さんもアシスタントも同じくです。

賃金が、ドーーーーンと下がりましたね。


で、ヘルプアシとして仕事場に入ると、

わからない事だらけで不安でいっぱいになるんです。

まず、書いたように、いくらもらえるのかわからない。

でも、いつもの事なのでそれは良しとしてました。

食事の時間とか、休憩があるのかとか

そもそもいつまでやるのかが分からないんですよね。

漫画の追い込み(※)って、原稿が上がるまで続くんです。

※追い込み
締め切り前のめっちゃ切羽詰まった状態。

 

だから、行ってから12時間で帰れるのか、

16時間くらい続くのかわかりません。

1日で終わるって聴いてたのに27時間仕事し続けたこともあります。

みんな睡眠不足でフラフラの状態でイライラしてて、

すごい空気の中で仕事してましたね。


唯一の救いは、

原稿が上がってホッとして、

先生が笑顔で

「今回は、ありがとう!助かりました!」

って言ってくれたことですね。


どんなに有名な先生でも、ヘルプで手伝いに行った先生は、

僕の顔と名前をしっかり覚えてくれてて、

次に、どこか出版社のパーティーとかで偶然出会ったときに

「いや~、あの時はありがとう!」

って向こうから声をかけてきてくれたりしました。


そうやって、少しずつ業界内で顔が広くなっていきました。

つづく…


アナログアシ時代の思い出 その8 おわり


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アナログアシ時代の思い出 その7「気がつくと古参に」

漫画のお手伝いをする以外にも

アシのやる事はいろいろありました。


現在の僕のお仕事は、

漫画家の先生が漫画を描くのをお手伝いしてお金をいただくことです。

それが、アシスタント

在宅でパソコンを使って描いているので、

「漫画を描く」以外のお仕事は、ほぼありません。


でもアナログアシ時代には、

それ以外にいろいろなことをしなければいけませんでした。

 


日常の食糧の買い出し。

電話番。

先生の引っ越しのお手伝い。

先生とお酒を飲みに行く。

先生が集中するために、ただそこにいる。

などなど…。

 

電話がかかってきたら100%先生にかかってきてるんだから

先生がとればいいのに、と思ったんですが

アシがまず電話を取るって決まってたんです。


アシが電話をとって、

「先生、お電話です」

と取り継ぐんです。

あ、最初の先生 ロイホ先生(仮名)の仕事場の話ですね。

なんか、秘書を雇ってるみたいでカッコよかったんじゃないでしょうか。


先生は、電話に出る時は必ず

「はい、漫画家のロイホです」

と名乗りました。

自分は漫画家である。

漫画を世の中に発信しているのだ、というプライドのあらわれでしょうか。

いつ、どんな相手からかかってきても

「はい、漫画家のロイホです」

と名乗っていました。

 

ロイホ先生は、右腕を骨折したあと引っ越しをしました。

結婚して、新居を購入したとのことでした。

それが、東京ではなく静岡県のとある町だったんです。


別に漫画家を辞めるというワケではないですよ。

連載は継続中です。

渋る担当編集者さん

「ぜったいに原稿は遅れないようにするから!」

と約束して、説得したようでした。

 

引っ越しの荷造りに、アシが招集されました。

その時は、BさんCくんは、もういません。

新しく、僕より年上で雑誌掲載経験もあるキャップさん(仮名)

若いのにスポーツカーを乗り回していたアゴくん(仮名)

新しく加入していました。

 

ロイホ先生は、骨折から復帰して漫画の執筆は始めていましたが、

引っ越しで重い物を持って、またピキッとやってしまってはイカンと

ほとんど何もせず、

荷造りをアシに任せっきりにして、ぶらぶらしていました。


気がつけば、僕が一番古いアシになっていました。

 つづく…

 

 


アナログアシ時代の思い出 その7 おわり

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アナログアシ時代の思い出 その6「先生が骨折した話」


僕が初めてアシスタントをしたロイホ先生(仮名)骨折しました。

利き腕の右腕上腕です。

 

経緯を説明します。


先生は、健康のためか何のためかわからないけど、

気功の道場に通い始めました。


気功のおかげでタバコをやめることが出来たこともあって、

熱心に通っていたようでした。

で、ある日、

道場のレクリエーション大会で腕相撲をしたら

 

ピキッと、

右上腕の骨が、折れてしまったようです。


日ごろのカルシウム不足と運動不足でしょうか。


想像するだけで怖いです。


それ以来、僕は、ぜったい右で腕相撲はしないようにしてます。


で、先生が骨折して漫画が描けなくなったので、

雑誌の連載はお休みになりました。

 

当時、アシスタントは僕を含めて3人。

一度デビューして連載経験もある僕より年上のBさんと、

僕のあとに入ってきた関西出身の漫画家志望Cくんです。


急に仕事がなくなって、

どうなるのかな~と思っていたら、


「しばらく仕事はお休みです」

と言われました。

以上。

 

え?


仕事ないの?

お給料は?

 


給料もなしです。

 

なんか…

急に放り出された形になりました。

 

初めてのことだったので、

僕は、どうしていいかわかりませんでした。


Bさんは、知り合いのつてを頼って

アシスタントさせてもらって収入を確保しました。

さすがです。

 

Cくんは、え~と…正直、印象が薄くて記憶もあんまりないんだけど、

たぶん、実家に帰っていたんじゃないかと思います。

関西の方で商売をしている結構大きな家らしかったので。


で、僕はというと、担当編集者さんが紹介してくれた

ロイホ先生(仮名)と同じ雑誌に連載していた逆ヒゲ先生(仮名)のところに

臨時で手伝いに行ったりしました。

でも臨時ですから、継続的な収入にはつながりません。

自分でもその期間、何してたのか記憶がありません。

ほかにも数人の漫画家さんを手伝わせていただいたのをおぼえています。


それが、僕の、ヘルプアシスタントの歴史の第一歩かと思うと

感慨深いですね。

当時は、こんなに生涯にわたってアシスタントをする事になるとは

夢にも思いませんでした。

 


で、まあ、単純な骨折でしたからね。

一か月くらいで治るのかな~と思って待ってたら、

3週間後くらいに電話がかかってきて、

「ゴメン、また折った」


へ?

 

先生、退院して病院の前でタクシーに乗り込むときに、

右腕で全体重を支えようとして…、

また、ピキッ と。

 


そのまま病院へ逆戻り。

 

けっきょく、次のお仕事が始まったのは、

3か月後でした。

 

途中、アシスタント3人で、先生のお見舞いに行った時に、

一人3万円ずつ包んでくれました。

「今回の件では、申し訳なかった。
これに懲りず、仕事場が再稼働するときは
また手伝ってほしい」

と。

 

 

そして、3か月後…


仕事場に行ったら、BさんCくんは辞めていました。


つづく…

 

アナログアシ時代の思い出 その6 おわり

 

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漫画アシスタントというお仕事 その6「スタイルいろいろ」

僕がお手伝いさせていただいてる漫画家さんは、

当たり前だけど全員デジタルで漫画を描いてらっしゃいます。


デジタルって一言でいっても
いろんなやり方あるんですけど、
共通してるのは、
コミックスタジオ か クリップスタジオ

どっちかのソフトを使っているということ。

なんでかっちゅーと、

僕のPCには、コミスタとクリスタしか入ってないので、

それ以外のソフトで作業しろて言われても出来ないんです。


それでも、やり方は十人十色。

ページのレイヤー構成もいろいろです。


例をあげると、

本当にシンプルで、新しいページファイルを作って、

そこに写真をペッと貼りつけて、

「これをトレースしてください」

という単純な支持もあれば、


めっちゃたくさんのレイヤーがあって、

初見では、何がどうなってるのかわからないくらい複雑な

ページファイルを送ってくる先生もいます。


「線画はすべてベクターでお願いします」

という人もいるし、

「線画は、全部ラスターにして送り返してください」

という人もいます。

「トーンは70線でお願いします」

という人がいたり。

ま、デジタルなので、
間違って60線でやっちゃったとしても
すぐ直せるんですけどね。

そういうのがデジタルの強み。


「流星さんは、アナログの線の方がいいので、
アナログでペン入れしたものをスキャンして取り込んで
仕上げだけコミスタでやってください」

という指示もありました。

それは、かなり面倒な作業でしたね。

その先生とは長いおつき合いですが、

現在は、クリスタのリアルGペンというペンがあるので、

それでやるようにしてます。

実際、アナログで紙にペン入れしたのをスキャンすると、

線がぼそぼそすぎて、結局デジタルで線を整えたりしなければならなくて

二度手間になってしまうんです。

面倒だな~と思っていた矢先に、

セルシスさんがクリスタにリアルGペン追加してくれたので

助かりました。

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外出が多い先生もいます。

午前10時に、

「今日は、このページの背景をお願いします。
それで、今日は一日家におりませんので
何かありましたら連絡はLINEでお願いします」

という指示がきて、

下描きチェックは、JPEG画像にしてLINEで送ります。

「午後10時になったら勝手におわってください」

という感じで、放置プレイのような先生ですね。

こちらとしては、自由でいいんですけど。

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食事休憩とかも、スタイルはいろいろ。

こっちから

「食事休憩いただきます」

ってスカイプチャットで送って、

食事から戻ったら、

「ただいま戻りました。作業を再開します」

っていちいち宣言しなければならない仕事もあるし、

「いつ、どれだけ休憩とってもらっても構いません。
いちいち連絡は不要です」

って言われる先生もいます。

 

本当にいろいろですね~面白いです! (^_^) 

 

という感じで、思いつくまま書かせていただきました。

 

 


とにかくどんな先生のアシでも、

やる事をやっていれば、何とかなるっつーか…。

仕事をちゃんとしていれば、

継続して雇っていただけるということですね。


ひと月に、何人もの先生のアシをやると、

いちいち作業スタイルが違うので、

そういうのにストレス感じる人は、

専属アシスタントという仕事形態もあります。

一人の先生のアシスタントをずっとやるっていうね。

 

ひょっとしたら、

僕みたいな臨時アシ専門の人の方が

珍しいのかもしれませんね~。

 

以上。

長々と読んでいただいて、ありがとうございました!

 

漫画アシスタントというお仕事 その6 おわり

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アナログアシ時代の思い出 その5「インクこぼした話」

漫画のアシスタントの失敗といえば、

よくあるのが、机の上でインク瓶を倒してしまって、

原稿の上にインクをドバーとぶちまけてしまうというやつだ。


最近は、デジタル作業が多くなったので、

そんな心配はまったくないんだけど想像してみてほしい


プロの漫画家の先生が途中まで絵を入れた原稿に

インクをぶちまけて台無しにしてしまう事を。


どうですか、想像しただけで気絶しそうになるでしょう。


わかりやすいように一般の会社だと

どのくらいの失敗であるか例えてみましょう。


例えば、会社の命運をにぎるほどの大口の取引先の社長

「ちょっと近くまで来たので寄ってみました」

と来訪し、応接室へ通されたとします。

 

そこへあなたがお盆にお茶を乗せて持って行き、

「粗茶でございます」

とお茶をテーブルに置こうとしたときに手ががくぶると震えて

熱いお茶を社長さんの左肩から腰くらいまでぶちまけてしまって、

「あちちちち!おい何をするんだ!」

と怒ってる社長を見ると、

左半身がどうやら溶けてしまっているぞ。

よく見たら自分がお茶だと思ってもってきた液体は、

濃硫酸であったとさ。

これは大事件。

 

くらい大変な失敗なのである。

 

僕も、

そんな失敗をしないよう慎重に作業を進めておったのですが、

慣れというのは怖いもので、

新人アシスタントも数カ月たつと緊張感も消え、

時間もない急げ急げ締め切りギリギリだぞと

急かされる状況下において、

僕はついにやってしまったのでした。


指先がパイロットの製図用インクの瓶にひっかかり、

瓶がカタリと横倒しになり、

中の真っ黒なインクが机の上をつーと滑り、

原稿へ向かって一直線。

狭い机の上ですから、

インク瓶から原稿までの距離は5センチほど。


一瞬の出来事で僕は身動きもできず。

しかし僕の体内では急激に血液が脳内へとなだれ込み、

一種のキゼツ状態

頭の中が真っ白状態へと突入したのでした。


気力をふりしぼって、素早く原稿を取り上げてみると、

なんと、机の上の原稿は、端っこが反りかえっていたため、

インクがすべて原稿の裏側へ吸い込まれておりました。

 

なので原稿の裏側は、イラストのように汚れてしまったのですが、

先生の絵が描かれた表側には被害はなく、なんとか…


なんっとか…事なきを得たのでした。

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いちおう先生に言いましたが、

原稿表面には被害はなかったということで、


「これからは気をつけるように」


と言われただけで済みました。


それからは、

インクは原稿と同じ地平に置いてはならぬ

というのがお約束となりましたとさ。

 つづく…

 


アナログアシ時代の思い出 その5 おわり

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